監修のことば

東北大学医学部 老年科 名誉教授
仙台富沢病院
佐々木 英忠 先生

結核を中心とした感染症の時代、脳卒中の時代、そして現在の癌の時代を経て20-30年後には認知症が今日の3大疾患である癌、心疾患、肺炎より、医療・介護費が2-3倍要する疾患になると予想されている。
人は何かをしたいという大脳辺縁系由来の情動(目的)があって行動し、新皮質由来の知識や身体などの道具を用い目的を達成しようとする。情動が中核で知識は道具(末梢)の一つであろう。知識や身体が劣化し目的が不達成の際イライラし行動心理症状(認知症の場合はBPSD)を生じるのでBPSDは中核症状で知識低下は末梢症状と考えられる。
認知症は高次脳機能の異常があり且つ社会生活ができなった状態と定義されている。例え知識が低下してもBPSDもなく介護に素直であれば縁側に座ってボーと過ごしている普通の高齢者であり認知症の定義から外れることになる。孫が来てうれしい、家族の親切がうれしい、などの衰えた道具に見合ったささやかな喜び(目的)があれば、即ち、道具と目的の平衡老化が保たれていればたとえ寝たきりでも幸せと感じることができよう。中核症状を治療することによって認知症は治療可能な疾患になると考えられる。平衡老化は認知症ばかりでなくすべての老化及び疾患を有する高齢者のQOLを達成するために必要と考えられる
認知症は単に知識の劣化よりも知識の上流である情動、更にBPSDの誘因である生活環境、介護者の精神行動異常(BPSC)、認知機能の限界水準の上昇、等関連事項を一元病因的に診ることで解決の糸口があるように、老年病は単一の臓器のみで解決を図るのではなく関連する上流の臓器を一元病因的に診る必要があると考えられる。
知識や身体という道具が加齢や廃用症候群によって劣化することは自然の摂理である。道具である臓器を治療する時代から高齢者の心の病気(認知症)へと変遷しようとしている。心には実態がないので新皮質の認知機能と大脳辺縁系の情動機能に分けると認知症になっても情動機能は保たれている人が多いことが判明した。古来より健常人では情動は苦悩的情動と歓喜的情動に分類されているが、いかにして苦悩的情動より歓喜的情動をもたらすかが難問視されてきた。しかし、認知症では心地よい情動刺激を加えることにより苦悩的情動(BPSD)から歓喜的情動に移行しやすい例が多い。本協会は認知症患者さんへ様々な情動療法を用いて人が本来持っている歓喜的情動を引き出すことにより、BPSDが消失し、縁側で日向過ごしている普通の高齢者になることにより認知症の定義から外れること(治療)を目標としている。
今後医療費と介護費は対等になり、高齢者の30%は変なところで亡くなると予想されている。認知症によるこれらの難問解決のため、人工頭脳が不得意な情動機能異常という領域こそ本協会が取り組む領域である。

ドクターの紹介

dc_sasaki【佐々木 英忠 先生】
東北大学医学部 老年科 名誉教授
仙台富沢病院

1966年: 東北大学医学部卒業、第一内科に入局
1976年: ハーバード大学留学
1987年: 東北大学老年病学初代教授に就任
2000年: 日本老年医学会会長 2001年: 日本老年医学会理事長
2005年: 東北大学退官後、東北大学名誉教授となり秋田看護福祉大学長に就任
2010年: 仙台富沢病院顧問
所属学会  日本老年医学会名誉会員
研究分野  老年医療、認知症、廃用症候群、介護機器開発など

dc_fujii【藤井 昌彦 先生】

東北大学医学部 臨床教授
仙台富沢病院

1983年: 弘前大学医学部卒業
1987年: 同大学院卒医学博士
1996年: 東北大学医学部大学院研究生(老年内科)
1999年: 医療法人東北医療福祉会 山形厚生病院 理事長
2007年:東北大学医学部臨床教授(老年内科)
2004年: 医療法人仙台医療福祉会 仙台富沢病院 院長
2010年:同統括理事長
所属学会  日本老年医学会代議員、日本認知症ケア学会など
研究分野  老年医療、認知症、廃用症候群、介護機器開発など