エラーレスライフについて

エラーレスライフという言葉を聞いたことがありますか?
多分、無いと思います。
なぜなら、ある有名な認知症の専門家の言葉からヒントを得て、私が作った言葉だからです。
「失敗のない生活」という意味を表してみたかったからです。
また、今日のお話は、その専門家の教科書を読んだことの受け売りがほとんどです。
具体的に申し上げます。認知症患者さんと接するうえで、大事なポイントは「恥をかかせない」、「困らせない」事だと思います。
「失敗のない生活」を送っていると本人に思い込んでもらうことが大事だと思います。

認知症の代表とも言えるアルツハイマー型認知症を考えた場合、多くの場合に患者さんは認知症とは自覚せず、生活上で多くの失敗を繰り返す傾向があります。
周りで世話をしている立場の人は、少しでも失敗を減らしたいと思います。
当然のことです。
そのため、認知症の患者さんが何かを失敗したり、間違ったことを言うたびにそれを指摘し、修正しようとします。
いわば、「教育」し「訓練」しようとするわけです。

しかし、残念なことですが、このような試みは、ほとんど失敗します。
せいぜい、患者さんが不機嫌になり、口論になるのが関の山です。
患者さんの多くは脳の病気という認識は無いことが多く、自覚的には、生活がうまく行かず何故か失敗と混乱が続き、「不安と混乱」の中で毎日を過ごしています。
当然、失敗を恐れています。
また、脳障害により、失敗から教訓を得て自らの行動を修正していくことも出来ません。
ですから、本人が最もおそれている「失敗」を突き付け、本人が達成不能な目標を要求すれば、本人はパニックになり、落ち込み、取り乱し、怒り出すしか道は残らないことになります。

それでは、どうすればよいでしょうか。
ここで最初に挙げた「エラーレスライフ」が出てきます。患者さんをケアする人は、患者さんが失敗しようとするような場面を出来るだけ避け、もし、失敗が生じても「さりげなく」それを助けてあげる方針をとる事が必要です。
それにより、患者さんは戸惑いながらも毎日の生活を送り、静かで本人なりに落ち着いた生活を維持できることが多いのです。
そして、ケアをする立場の人も、援助作業は続いても、より穏やかな気持ちでお世話していきやすくなります。

最後に強調します。
ここまで書いたことは「理念」です。
どちらを向いて前へ進むかの方向を提案しただけです。
現実のケアは忙しく、介護する人は疲れ果てながら慌ただしくケアを行っているのが実情です。
この通り、理想的に物事が進むことは少ないと思います。しかし、このような考え方で工夫すれば、ケアの苦労が少しだけ少なくなるのでは無いでしょうか。
あくまで、「小さなコツ」として受け止めていただきたいと思います。
お疲れ様です。