注意すると怒り出す
注意すると怒り出す
認知症の初期に、ご本人がご家族ともめるパターンの一つに、ご家族が(親切に)注意してあげたのに本人が怒り出し、注意してあげたご家族も大いに憤慨しむくれる場面です。
ご家族は「(これから失敗しないよう)教えてあげたのに本人が怒り出した」ので「親切を仇(あだ)で返された」と感じます。
じっと我慢はしますが怒りの炎がじりじりと胸を焦がします。そして、これが何回か繰り返されると、家族内の喧嘩が始まります。
今日は認知症のご本人とご家族の間で生じやすい、このようなもめごとの仕組みについてご紹介したいと思います。
まず、お話したいのは認知症、特にアルツハイマー型認知症では、ご本人は病気という認識(病識と呼びます)が希薄かあるいは欠落している事が非常に多いことです。
認知機能が低下して記憶、判断能力、物事の段取り能力などが衰えると当然に「失敗」が増えます。
しかし、病識の低下、欠落により、ご本人は失敗を軽く考えたり、時には無視したりします。
そうすると、「失敗をしたけれども大したことは無い」と思っているのに、それを注意すると、ご本人は「つまらない事にこだわり、いちいち小言(こごと)を言う」と受け止めます。不要で不当な干渉と感じるのです。
更に、話を複雑にするのは注意するご家族の善意です。ご家族は本人の事を心配し、これ以上失敗しないようにと「本人のためを思って」注意するわけですが、ここで少し立ち止まって考える必要があるでしょう。
話は変わりますが、子供を育てていく時に親は子供に対して色々注意します。
失敗したことを子供に教え、どうやればうまく行くかを教えるわけです。
子供はそれを素直に聞き入れたり反抗したりしながら、経験から学習し成長することによって能力を高めていくわけです。
話を戻します。
認知症の本人へ注意するとき、ご家族も無意識のうちに同じように考えているのでは無いでしょうか。
すなわち、注意し、改善点を教える。
本人はその経験から学習し、失敗しないように言動を改善していく。このように考えてしまうのではないでしょうか。
しかし、残念ながら、認知症の場合はこうは行きません。
認知症の場合の失敗は今まで経験していなかったからではなく、認知能力の低下に基づき、できたことができなくなるので失敗するのです。
当然、仮に失敗を十分に自覚しても、能力の低下による失敗ですから改善のしようがないのです。
記憶、学習能力が低下するのは認知症の基本的症状のひとつです。
また、修正できない失敗を繰り返しても落ち込まないのは、病識が低下しているのでそれを軽視出来るからかもしれません。
そうした微妙な心のバランスのところに、あえて失敗を指摘すれば、ご本人は怒って事実を否定するか、失敗を認識して思い切り落ち込むかのどちらかを選ぶしかないことになります。
ですから、認知症の患者さんが失敗しても、あからさまに指摘をするのは抑えていただいた方がよいと思います。
前もって失敗しにくいようにご本人が直面する場面を設定し、失敗してもさりげなくそれをカバーする方針をとるようにお勧めします。
認知症であれ、健康であれ、人は恥をかきたくありません。みじめな思いもしたくありませんから。