認知症の薬を飲んだら怒りっぽくなった!?

「家族が認知症となった。渋る本人を何とか説得して病院で診察してもらった。認知機能が改善するという薬をもらった。ところが、服用後、数週間経ったら今まで静かだったのが妙に怒りっぽくなってしまった。落ち着かない。どういう訳だ!」

このような体験をするご家族が一部いらっしゃると思います。
ご家族の気持ちとしては当然、怒りたくなります。
薬をくれたお医者さんの腕を疑いたくなります。
当たり前のことでしょう。

しかし、このようなトラブルは、適切な診断に基づいた適切な薬剤選択を行なっても起こりうることなのです。
このような事が起きやすい薬としてはドネペジルという薬剤がよく知られています。
(他の薬剤でも起こりえます)。

こう書くと、何かこの薬が副作用の強い悪い薬のような印象を与えてしまうかもしれませんが、違います。
この薬は特にアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症といった認知症に対して一番目に投与されることが多い、ごく標準的な薬です。
このお薬の服用で明るくハキハキするようになりご家族、ご本人とも喜ぶ事が期待できます。

しかし、患者さんの体質?によっては、国が定める手順で基準通りの量を投与しても、予想に反して怒りっぽくなってしまう人がいます(1割弱くらいの人に起きるのではというお医者さんもいます)。

イメージとしては、脳の機能を向上させてはくれるが、脳のアクセルとブレーキ機能の改善の度合いのバランスがとれず、ブレーキ機能の改善よりもアクセル機能の改善の方が強くなり、結果としてアクセル過剰となり、暴走してしまうような感じでしょうか。

アクセルとブレーキの機能がバランスよく向上すれば、明るく元気になり、以前よりも理解力、判断力もよくなったということになるのでしょうが、バランスが崩れて機能が上がってしまったために「活動的」というよりは「落ち着かない」、「明るく元気」というよりは「イライラして怒りっぽい」結果になってしまったようなものです。

既に強調したように適切な判断により適切に処方してもこのような混乱が一部に生じてしまう訳ですが、このような現象が生じるのは現時点ではやむを得ないことなのです。

それでは、このような現象が起きたら、どうすればよいでしょうか。答えは中止することです。
ただし、臨床場面は色々な状況がありますから、処方してくれた医師のいる病院へ電話し、事情を説明し了承を得たうえで中止するようにしましょう。
このような薬の場合は通常、急に中止しても支障はないはずですが。

また、今まで説明してきたように、医学的基準に沿って適切な診断に基づき適切な薬剤選択と用量決定を行なっても、このような現象は一定の割合で生じてしまうので、担当のお医者さんを「薮だ」と決めつけることが無いようにお願いします。

なお、投与した薬剤で偶々このような現象が生じても、用量の工夫(例;標準として規定されている量よりも少なめに投与する)ことにより、明るく元気になる効果が得られる場合もありますから、量を減らして再度投与しましょうかと相談された時には無下(むげ)に断らず、その方針のメリットとデメリットを十分に聞いてから判断して頂きたいと思います。