認知症の薬をのんだら眠ってばかりいる

ご家族に認知症の人が出た時に、お家の人が一番困るのは、いわゆる行動・心理症状(BPSDとも言います)ではないでしょうか。
固い表現なのでピンとこないと思いますが、要するに、精神的な安定を失い、困ったことをするようになることです。
内容は色々あります。
いくつか例を挙げると、些細な事ですぐに怒る、夜に眠らず騒ぐ、物をしまい忘れたり無くしたりしたのに盗まれたのではと疑うなどがあります。

ご本人を心配し、毎日の生活の世話をしてあげているのに、感謝されるどころか、理由もなく怒られたり、盗んだのではないかと疑われたりしては、お家の人も泣きたくなってしまいます。
更に、夜に落ち着かなくなりまとまらない事を言い、家中を動き回るので徹夜でそれに付き合ったりすれば、ご家族の健康状態の方が危なくなってしまいます。

そのような時に、病院を受診すると、気持ちを安定させ夜によく眠れる薬を投与してもらい、一安心となる場合があります。
ところが、初めのうちはよかったのですが、薬を飲ませ続けると次第に夜は眠るが、日中もうとうとする。
何となくぼんやりして歩く姿もふらふらしているようになったりします。
そうなると、今度は、このまま、同じ薬を飲ませ続けてよいか別の不安が起きてきます。

この様な場合、当然、黙って様子を見ている必要はないのでお薬をくれた病院へ電話し、看護婦さんへ相談してみるべきです。
そして、その指示に従い、薬の飲ませ方を変えていくべきです。

ここでは何故、そのような事が起きるのか、その理由を説明したいと思います。
精神科の薬にはいくつか特徴があります。
大きくまとめると「よく効くことが多いが副作用も多い」となります。
なぜそうなるのか、いくつかの理由を説明します。

一つ目は、個人により必要な量が極端に違うことが多いということです。
例を挙げると、よく使用されるクエチアピンという薬は最大量が1日につき750ミリグラムとなっていますが、1日の量が12,5ミリグラムで十分な患者さんも時々います。
60倍の開きがあることになるわけです。
実際の臨床では、投与対象の患者さんの症状、年齢、体格、(得られれば)過去の投薬による結果の情報などを総合して最初の投与量を決めるのですが、それが外れることが時にあります。

二つ目の理由としては、病状が重症なうちは大量が必要だが、落ち着いてくると効きすぎてしまう場合があることです。
このような場合も、前述のような条件を総合して次回の来院日まではこの量で丁度よいだろうと判断して投与するのですが、予想が当たらないこともあります。

三つ目としてお話ししたいのは効果の持続時間です。
これも各薬剤により平均でどれくらいの時間で効果が無くなっていくかは平均値が出されています。
しかし、やはり個人差がありますので、予想に反して長く効果が残ってしまうことも時々あります。

他にも理由はありますが、精神科の薬の場合は、このような理由で予想に反して効きすぎる(効きが弱すぎる場合もあります)ことがあるのはどうしても避けられないことなのです。
このような場合は遠慮せず、病院までお問合せ下さい。

要は患者さんに一番合う薬をみんなが協力しあって探し出し、患者さんとご家族が安心して暮らせる方法を探し出せればそれでよいのですから。