認知症の患者さんとの「つきあい」の基本

仕事柄、認知症の患者さんと沢山、お会いします。
また、当然ですが、そのご家族とも沢山、お会いします。
そのような経験を積んでくると、ご家族の共通の悩みとして「どのような方針でご本人と付き合っていけばよいのか」があるように思います。
今日はこの点について私なりのお薦めの方針をお話したいと思います。
キーワードは三つにまとめられると思います。
「安心させ」、「さりげなく助言し」、「手伝う」です。

具体的に説明します。
認知症の患者さんの初期から早期にかけては毎日が不安でいっぱいです。
記憶障害が先行する事が多いので、過去の体験から得た情報がうまく行かせなくなります。
今まで容易に出来ていたことを失敗します。
現状に対する認識能力が低下し、病識(自分の病気に関する客観的な認識)が無いかほとんどないのが通常ですので、なぜ最近、失敗するのか把握できません。
また、失敗を軽く見る傾向が出るので、心配する家族ともいさかいも増えます。
これからを展望する力も減りますので、明日がどうなりそうかも予想出来ません。
現状は失敗ばかりで、過去の記憶はあいまいになり、明日どうなるのかもわからない。

当然、人は不安になります。
そこから、邪推も生まれ被害的になる人も出てくるでしょう。
怒りっぽさには脳障害そのものも関与するように思えますが、混乱から生じたパニックの表現として怒り出し、まとまらなくなることも出てきます。
このような心理状態の時に不安を更に煽るような対応をすれば、増々、事態は悪化し、混乱するでしょう。

ですから、まず安心させる事が大切です。
他のエッセイにも書きましたが、失敗の指摘は無益でしばしばご本人を怒らせるだけになります。
穏やかに落ち着いた態度で接するのが基本となります。
常にそうあるべきだとは言いません。
ご家族も生活を背負っています。
疲れ切って、ご本人と対することも当然あります。
つい、不機嫌につっけんどんな態度をとることもあるでしょう。
しかし、それは仕方がないことです。
患者さんもご家族も人間です。
限界があります。
その範囲で「安心させる」ように心がければそれでよいと思います。

次に心がけたいのは「助言する」ことです。
出来ればさりげなく話した方がよいでしょう。
ご本人には今までの人生で培ったプライドがあります。
それを大切にしてあげたいものです。
助言を拒否されたらすぐに引っ込めてください。
深追いは無意味です。

そして、最後に強調したいのは、危ないなと思ったら、さりげなく手伝ってあげることです。
本人の失敗体験を少しでも減らすことが肝要です。
見かけ上、失敗体験が減ればご本人の不安もそれだけ軽減します。
不安が減れば、ご家族の提案を受け入れるゆとりが増しやすくなるでしょう。

最後に繰り返します。
先ほど強調しましたが、ご家族も人間です。
毎日の生活があります。
その中で、ご本人に配慮するとしても限界があります。
その限界の範囲で十分です。
ここでご紹介したのは「どのような方向で考えた方がよいか」という方向性だけです。
そう思ってもなかなかその通り実行できないのが普通です。

私が当事者だったら、私自身うまく出来る自信はありません。
しかし、ぎりぎりの生活を送りながら、ご本人への対応に更に迷ってしまう苦悩を持つよりは、基本方針を押さえておいた方が少しだけ苦労は減るのではと思い、今回、方針に関して提案させていただきました。
ご参考にして頂けたでしょうか。