「同じ話を繰り返す」のはなぜ?
認知症の始まりの時期に家族が気づきやすい症状として、「同じ話を繰り返す」ことがあります。
何回も同じ話を繰り返すので、家族が「その話はさっき、聞いた」と言っても、又、同じ話をしたりします。
何回も注意しているうちに本人は不機嫌になり、家庭内の雰囲気が気まずくなったりする事もあるでしょう。
このような場合、ご理解いただきたいのは、本人がわざわざ同じ話を繰り返しているわけでは無いことです。
これは記憶の障害の表れの一つなのです。
認知症になった場合、記憶が障害されるのはほぼ必発でしょうが、この場合、障害のされかたに特徴があります。
昔の記憶は比較的、障害されにくいのですが、少し前(例;数分前)の出来事に関する記憶は特に低下しやすいのです。
そのため、数分前に話したことを忘れてしまい、話したいと思っていたことを何回も繰り返すことがあるのです。
それでは、どうすればよいのでしょうか。
できれば、認知症に詳しい医師を受診させられればよいのですが、多くの認知症の患者さんは自分が病気であるという実感が乏しく、いくら勧めても受診したがりません。
家族は、心配なので物忘れを自覚させようと思い、患者さんが同じ話を繰り返した場合、その都度、「その話をさっき聞いた」と注意します。
しかし、多くの場合、この作戦は失敗に終わります。
いくら注意しても本人は記憶の衰えを自覚せず、かえって、「ぼけ扱いして!」とプライドが傷つき、注意した家族へ悪感情を持つだけに終わりがちです。
認知症、特にアルツハイマー型認知症では本人が病気の実感をなかなか持てないのが普通ですから。
それでは、どうしたらよいのでしょうか。
実際上、これが正解だという妙案はありません。
ケースバイケースで対策を立てていかなければならないのが実情だと思います。
比較的無難な方針としては、その場は話を合わせておいて、家族、親類、場合によってはかかりつけの医師と情報を共有しておき、対策を考えていくのがよいでしょう。
この際、心に留めておくべき大事なことは認知症だと本人に自覚させるのは非常に残酷なことかもしれないことです。
それは「自分自身が壊れていく」事を直視しろという事になりますから。
又、多かれ少なかれ、本人も漠然とした不安を持っている事多いので、本人の不安が増すような手段(例;「最近おかしいから病院へ行こう」)をとると余計に受診拒否につながりやすくなります。
どちらかというと、「認知症になってしまうといけないので、早めに病院で相談しよう」、「認知症になっていくのではと私(家族)が心配だから、私を安心させるために病院へ行ってみてほしい」などの表現の方が無難ですが、それでも本人が受診を納得しない事も多いと思います。
受診につなげる妙案はなかなかありません。
そこから先は、本人の性格、価値観、生活歴、職業歴、家族の状況、家族との関係・・・、色々な要素が影響するので、一概には言えませんが。
今回のお話は歯切れが悪くてすみませんが、ここまでです。